はじめに
KT88は真空管アンプにおいて、豊かなパワーと音楽的な表現力で高く評価される出力管です。
特にジャズファンにとっては、ウッドベースやエレキベースの「鳴り」をどれだけ自然に、深く描けるかが重要です。今回は、Genalex Gold Lion / Mullard / JJの3本のKT88を比較。
「ジャズベースが一番“鳴る”のはどれか?」を軸に、リアルな音の違いをレビュー形式でお届けします。使用アンプは筆者が所有するTRIODE TRV-88XR。プリ管はGenalex Gold Lion 12AX7、ドライバー段にはTung-Sol 12AU7に変更済みで、KT88管の違いが純粋に反映される構成となっています。
使用環境と比較するKT88真空管
比較するKT88
Genalex Gold Lion KT88(再生産)
- 解像度と輪郭の明瞭さで人気の現代管
Mullard KT88(再生産)
- 音楽的でふくよかな中低域を持つクラシカル系
JJ KT88
- パワー感と価格面で人気のエントリーモデル
ジャズベース試聴で聴いたポイント
試聴トラック
- Ray Brown Trio – Cry Me a River
- Ron Carter – Eighty-One
- Marcus Miller – Power
それぞれ、胴鳴り・アタック・音圧など異なるベーススタイルをチェックしました。
Gold Lion KT88の音質 – 解像度重視の現代派
Gold Lionは、非常に精緻で輪郭が明瞭なKT88。
Ray Brownのベースは、一音一音のディテールが浮き立つようで、まるでベースラインが楽譜のように見える印象。
ただし、低域のふくよかさは控えめで、「整いすぎていてクール」という印象も。
Marcus Millerの高速スラップには最適だが、ウッドベースの情緒にはやや距離を感じるかもしれません。
おすすめの聴き方:モダンジャズ、ピアノトリオ、フュージョン向け
Mullard KT88の音質 – 音楽的で体に響くベース
Mullardは、解像度はやや落ちるものの、圧倒的な「響きの豊かさ」が魅力。
Ron Carterの演奏では、弓の摩擦や胴鳴りの余韻まで、空気ごと鳴らすような立体感があります。
全体に温かみがあり、音に艶と体温を感じる。
Gold Lionが「見る」音なら、Mullardは「感じる」音と言えるでしょう。
おすすめの聴き方:ピアノトリオ、モーダルジャズ、スウィング系ジャズ
JJ KT88の音質 – 力感重視、だが粗さが目立つ
JJのKT88は、最も骨太でエネルギッシュな鳴り方をします。
Marcus Millerのようなエレキベースでは押し出し感が強く、太く力強い低音が魅力。
ただし、音像がぼやけ気味で、空気感の再現や解像度はやや劣る。
Ray Brownのベースでは胴鳴りが「響く」というより「膨らむ」印象で、細部の描写には不満が残ります。
おすすめの聴き方:ジャズロック、ファンク系、コスパ重視の方
比較まとめ – ジャズベースに最適なKT88は?
特性 | Gold Lion | Mullard | JJ |
---|---|---|---|
解像度 | ◎ | ○ | △ |
低音の質感 | タイト | ふくよか | パワフルだが緩め |
音楽性 | ○ | ◎ | △ |
胴鳴り表現 | ○ | ◎ | △ |
スピード感 | ◎ | △ | ○ |
コスパ | △ | ○ | ◎ |
結論 – ジャズベースを“音楽的に鳴らす”ならMullard一択
最も音楽的で、ベースの胴鳴りと体温を感じられるのはMullard KT88でした。
現代的な分析的音質ならGold Lion。力強さを求めるならJJ。
あなたがどんなジャズを聴きたいかで、選ぶべき真空管は変わります。
おわりに
KT88はただの「出力管」ではなく、音楽の“芯”を作る要です。
とりわけジャズベースにおいては、選ぶ真空管によって演奏の印象すら変わってしまいます。
あなたにとっての“ベストベース”を鳴らす1本を、ぜひ見つけてください。
もし「ベースの弦が空気を震わせる瞬間」を感じたいなら、Mullard KT88を一度試す価値は大いにあるでしょう。